弁護士ブログ

振り込み先を間違ってしまった時のお話

2021.08.21

1.今日は、私も含めて誰でも起こしうる「誤振込み」についての話を書きます。

「誤振込み」とは、振り込もうとした銀行口座とは別の銀行口座に、誤って振り込んでしまうことを言います。

銀行のATMなどで誤振込みをした場合、通常、振込元の金融機関に「組戻し」手続きを依頼することになります。そうすると、振込元の金融機関が振込先の金融機関(もちろん振込元と振込先の金融機関が同じ場合もあり得ます)に連絡を取り、さらに振込先の金融機関が、振込先口座名義人に連絡を取って振込人に返金してもよいか尋ね、了承が得られれば,無事、返金がなされます。

2.しかし、振込先口座名義人が返金を拒否したり、あるいは振込先口座名義人と連絡を取れなかった等により、組戻し手続きがうまく行かなった場合は、どうやって間違って振り込んだお金を取り戻せばよいのでしょうか?

この場合、振込先口座名義人に対し、法律用語ですが、「不当利得返還請求」をしなければなりません。

3.ここからは、実際に私が、銀行ATMで数十万円の誤振込をしてしまったAさんから、不当利得返還請求の依頼を受けた事件に触れます。Aさんは、誤振込の後すぐに組み戻し手続きをしましたが、「振込先の金融機関が振込先口座名義人と連絡を取れなかった。」という理由で、振込元の金融機関から「組戻し」がうまくいかなったと告げられました。そこで,Aさんは、これから振込金を回収するために一体どうすればいいんだろうと途方に暮れておられました。「組戻し」がうまくいかなった場合、残念ながら金融機関はそれ以上の助け舟を出してくれません。

私はAさんから受任後、弁護士会照会(いわゆる23条照会)、住民票の職権取り寄せ等を駆使して、振込先口座名義人の漢字氏名、住民票上住所を調査した上で、内容証明郵便により振込先口座名義人に対して不当利得返還請求をしました。しかし、振込先口座名義人は、住民票上の住所に実際には居住していないようであり、内容証明郵便のみならずその後発送した普通郵便も振込先口座名義人の元には届きませんでした。

さらに調査を進めると、誤振込後の口座残高が誤振込金額とほぼ同額であったことから、おそらく誤振込先名義人が使用していない銀行口座であり、なおかつ振込先名義人が誤振込みの事実に全く気づいていないであろうことも分かってきました。

そこで次に、振込先口座名義人に対して不当利得返還請求の裁判を起こし、訴状等を振込先名義人に送達することができませんでしたので、公示送達の方法により送達がなされ、そして欠席判決により勝訴判決を得ました。

そして最後の締めとして、「振込先口座から振込金が引き出されませんように。」と祈りながら、上記裁判の確定判決を債務名義として振込先の銀行口座の預金差押えを行いました。祈りが通じたのか、振込金は引き出されないまま全額が口座に残っていましたので、誤振込金全額の回収に成功しました。

全額回収できるか、終始ハラハラしましたが、全額回収に成功できました。成功したこともあり、自分が経験した事件の中で非常に印象深い事件でした。

4.このように長々と書きましたが、誤振込みをしてしまい,さらに「組戻し」の手続きもうまくいかない場合でも、回収できる可能性はありますので、あきらめないでください。

もっとも、「組戻し」がうまくいかない時に、弁護士に不当利得返還請求を委任すると,誰に依頼するとしても弁護士費用は総額10万円以上はすると考えた方がよいと思われます。ですから、私が依頼を受けたような数十万円の誤振込みではなく、数万円の誤振込みをして、なおかつ「組戻し」がうまくいかなった場合、弁護士に回収を委任するのは経済的に割に合わないことになりますので、事実上泣き寝入りせざるを得ない場合が多いというのが現実かもしれません。

昔と違い、インターネットバンキング等の普及により、高額の現金でも簡単に振込送金できる時代となりましたが、誤振込みの危険性は昔よりも高まったといえるかもしれません。私も肝に銘じなければなりませんが、振込先名義人は何度も確認して、くれぐれも誤振込みをしないようにしましょう。

YAMANISHI LAW OFFICE